今年2月1日(土)からスタートした神戸・横尾忠則現代美術館の企画展「兵庫県立横尾救急病院展」。前日1月31日に行われた開会式では横尾さん本人の発案により、美術館のスタッフが白衣を身につけマスクを着用して登場、来場者も配布されたマスクで口もとを覆うという、病院を模した一連のパフォーマンスが行われたのだが、よもやそれがその後私たちの世界を急変させた新型コロナ禍を予見するようなものになろうとは…。

「病院好き」を公言し自ら「日替わり病気」と呼ぶほどに、常に身体のどこかに異変を感じ不調を抱える横尾さんは、60年代を皮切りにおよそ10年ごとに病気や怪我に見舞われ入院を繰り返し、それを転機として創作を大胆に変化させてきた。また、頭や心よりも肉体のもたらす感覚に信頼を置くのが横尾さんの基本理念であり生き方でもある。

展覧会は、そんな横尾さんの様々な病歴にまつわる絵や病床での日記・スケッチ、「病気」「肉体」に紐づく作品を網羅、展示室の内装はさながら本物の病院のようで、横尾さんの西脇の子ども時代に関する作品と資料を紹介する「小児科」に始まり、「外科」「眼科」「皮膚科」「耳鼻咽喉科」を巡り「入院病棟」を経て「老年病科」に至るという流れ。現在80歳を越えて「老い」も重要なテーマとなっている。趣向を凝らした展示による今回の企画展は、横尾さんにとっての大きな主題である「病気」「肉体」を切り口に横尾作品を紹介する期間限定の“ヨコオ・テーマパーク”のようですらある。

長らく休館を余儀なくされたものの、先月・6月2日(火)より展覧会を再開、同19日(金)には展示をアップデート、「産婦人科」「整形外科」「泌尿器科」が新たに開設された。また一部作品の展示替えを行い、大型の作品やテクナメーションなど、新たに21点の作品が登場した。そして現在、横尾さんのツイッターで連日公開され話題のヴィジュアル・メッセージ「WITH CORONA」のプリントが館内あちこちの壁に貼られなおも日々追加されているところだ。

展覧会を企画した同美術館の学芸員・林優さんによるお話しを聞きながら、新たな展示作品や館内に“増殖”してゆく「WITH CORONA」シリーズを追った。

「今回の展示替えは横尾さんからの発案・要請で、アフターコロナに向けて展示をアップデートしたいということで、天使が登場する『受胎告知』の絵画作品と画面が動くテクナメーション作品を並べ「産婦人科」としました。」と林さん。

様々な「病い」に関係する一連の展示の中に、「誕生」というポジティヴな要素が登場した。そこからコロナ禍を経た後の人類の再生をも想起させられた。しかし横尾さんには「病気」というものを必ずしもネガティヴには捉えずに、むしろ己れの創作の糧にしてきたという“再生”の歴史があることも考え合わせる。

各病室の作品の隣や廊下の壁に貼られた「WITH CORONA」のプリントを観て回る。

「「WITH CORONA」は、横尾さんとしては「ヴィジュアル・メッセージ」と呼んでいて、毎日横尾さんから送られて来る最新のメッセージを少しずつ貼っていって、たぶん会期が終わる頃にはもっと増えていることと思います。」

このコロナ禍をバネにしてアートに昇華するところがやはりとても横尾さんらしい。というか、コロナを逆に創作活動に利用しているとさえ思えてくる。今回の展覧会のテーマとのシンクロニシティを感じさせるところも、一種不気味なほどに凄い。

「横尾さんには、これまで病気をしてきて、その病気を創作エネルギーに転化させてゆくようなところがあり、同じくコロナ禍のマイナスもエネルギーにされています。

「WITH CORONA」はあちこちの美術館など色んな関係者の方にも画像だけをメールで毎日一斉に送られているそうです。何か、横尾さん流のプロジェクトのような感じなのかもしれません。」

ーリモート的なアートの展開みたいな。そんな風にも思えます。

「あ、そうですね。我々はほんとリモートで送られてくるものを貼ってるって感じです(笑)。」

ーその辺の感性が横尾さんの天才というか…。

「すごく時代を読むというか。開会式でマスクを付けるパフォーマンスを行ったというのがひとつのきっかけではあると思うんですけど、そういう予言者的なところが横尾さんらしいと思います。」

最終日まで日々更新されてゆくだろう、横尾さんから私たちへ向けられた「WITH CORONA」のメッセージも含め、見どころ満載の「兵庫県立横尾救急病院展」 は、8月30日(日)まで開催中。この機会に美術館に出現した病院内を巡り横尾アートに触れ、身体との付き合い方を見つめ直してみるのもよいかもしれない。

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