多可町加美区丹治。正面に東播磨の名峰・千ヶ峰の頂きを望むなだらかな山すそに、天干しされた真っ白なこんにゃくスポンジが並んでいる。その数およそ4000個。張り詰めた日差しを浴びて輝くような、角の丸いそのフォルムが愛らしい。

冬将軍の足音が聞こえ始める11月より徐々に春の兆しが現れる3月まで、寒さが最も厳しい時期に昔ながらの手作業によるこんにゃくスポンジづくりは間断なく続く。この地ならではの昼夜の寒暖の差が大きい気候、そして山懐の良質の水も、高品質のスポンジとなる凍りこんにゃくを産む大きな要素だという。

1887年(明治20年)創業の「畑中義和商店」。5代目の藤原尚嗣(なおつぐ)さんは現在29歳。地元にたった一軒残った伝統特産品づくりの若き担い手だ。4年前、先代の畑中博さんが病のため事業を畳もうとした時に親族の藤原さんが一大決心、自分が受け継ぐと名乗りを上げた。

代々継承されてきた優れたこんにゃくスポンジ製造の技術を博さんが免許皆伝、それまで化粧品メーカーに勤め販売までのノウハウを学んでいた藤原さんがブランディングも含めて商品価値を高めた。

以来、合成着色料や防腐剤を一切使わず、伝統製法にこだわった安心・安全な洗顔&肌洗いスポンジとして支持を集め、順調に売り上げを伸ばしている。一昨年には全国の地域特産品を審査する「むらおこし特産品コンテスト」において、見事最高賞である経済産業大臣賞に輝いた。

江戸時代の昔より存在したというこんにゃくをスポンジにして赤ちゃんの肌を洗う文化、130年前の創業時には食用の凍りこんにゃくを作っていたそうだが、初代が間もなく食用のものに厚みを持たせて洗顔用のスポンジを開発、製造を開始した。「凍らせる前の生のこんにゃくの製法は特殊で、他社では真似できないものですね。」と藤原さんは受け継がれた秘伝の製法に胸を張る。

ひとつのこんにゃく芋から取れるこんにゃく粉は1割にも満たない。畑中義和商店では純国産の良質のこんにゃく芋にこだわり、産地である群馬県から仕入れた粉でこんにゃくづくりをし冷凍して凍らせる。

「こんにゃくの冷凍具合によってキメの細かさや滑らかさが決まるので、最も気を使うのはそこですね。」と藤原さん。先代まではその日の天候・気温を読み、培われた感覚により冷凍庫の温度調整をしていた。経験値が頼りだったが藤原さんは大学の研究室に頼んで、実験を通して外気温と比較、科学的なデータを手に入れそれに基づいた温度管理を導入している。毎年のデータの蓄積により更に精度が上がっているのを実感している。

冷凍・解凍を繰り返してスポンジ状になったこんにゃくを天日漂白する。数日置いて日差しを浴びせいったん回収、両面を真っ白にするために水分を含ませた上で裏返してまた天干しする。両面合わせ10日ほどの日数を要する。曇りの日が続くと時間がかかり、好天が続くと早めに白くなる。天干し後は雨雪の当たらない屋根の下で吊して風に当て自然乾燥させる。

藤原さんが後を継いで力を注いだのが販路開拓だ。 ​​

2018年の4月から自社ブランド化。百貨店、自然派・無添加のセレクトショップ、有名温泉旅館など次々と直取引を実現させていった。ギフト品や美容関係のノベルティの品としての注文も多い。

「去年参加した東京ビックサイトのギフトショーや幕張メッセの国際化粧品展など、展示会を通してびっくりするくらい多くの引き合いがあったんです。ウチは製造工程が特徴的なので、出展ブースでそこを具体的に見せて分かりやすく訴求しましました。手間暇かかってる分、ちゃんとクオリティに反映されてるんです、と説明して。」

海外にも進出、アジアでは中国、台湾、欧州はスペインやオランダ…米国での販売も視野に入れている。

藤原さんは「化粧品会社時代の営業経験が活きてますし商品づくりも手掛けている会社だったので、原価に対する販売価格の設定だとか、パッケージとか店舗での見せ方もすごく経験が役立っていると思いますね。」

営業の立場で製造過程から販売の現場までトータルで理解していたことが現在の躍進に繋がっている。

順調な経営だったが、この春突然に全世界を襲った新型コロナウィルスの影響はやはり受けざるを得なかった。緊急事態宣言により、百貨店やショップ、旅館など取り扱い店が軒並み休業したことで売り上げが減少、海外からの発注対応も商品の発送が出来ずに5月になって再開した。藤原さんは営業活動もZOOMを通して商談するなどの対策をとっている。

「こんにゃくの日」にちなみ、5月29日には地元の多可町役場を訪れ、町内の飲食店応援企画「おいしいテイクアウト&ショッピングキャンペーン」に合わせて「つやの玉」2000個を寄贈した。カタチが崩れるなどして規格外となり商品には出来ないものの、品質的には何ら変わりがないこんにゃくスポンジが各店特製のお持ち帰りメニューと一緒に配布された。

「新型コロナ禍の現状でウチにしか出来ないことで何かお役に立てればと考えました。ストレスが溜まる自粛生活に洗顔という面で、心と体のリフレッシュになればと思います。」と藤原さん。その地域貢献の姿勢も共感を集めている。

伝統特産品の価値を引き出し魅力豊かな商品としてみごとアップデートさせた藤原さんに、これからの抱負を訊いてみるとこんな答えが返ってきた。

「地元の方に愛される商品・会社となってゆきたいですし、地元一有名な企業に、多可町の皆さんに誇ってもらえるような会社にしたい。あの製造風景というのはここでしか見れないものなので、冬限定にはなりますが観光として成立するようになれば更なる地域貢献にもつながるのかなと。そこを目指していきたいですね。」

大自然に囲まれた町の、冬の風物詩と呼べそうな作業風景。寒さに耐えて整然と並ぶこんにゃくスポンジの美しさ。観光によって地域の価値をも高めるアプローチ。多可町を代表する企業を目指し、伝統の価値を未来に引き継ぐ若き経営者の夢は大きい。

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